2016年5月18日水曜日

粉飾決算の本質とは?繰り返される大企業の粉飾事件、その本当の理由

大企業の粉飾決算の本質を斬る


どうも千日です。

T社の不適切決算について、5月29日に社長が謝罪会見を開き、2014年度決算について異例の2度の株主総会を開くことを明らかにしました。

第三者委員会による不適切会計の調査結果は7月中旬に出るので、6月25日に予定している定時総会では決算の発表が出来ない。定時総会では任期到来した役員の再任をはかる目的です。
そして2度目の臨時総会で第三者委員会の調査結果の報告と合わせて決算報告をするとのことです。

粉飾決算が無くならない理由として、①経営者のモラルが低い、②監査法人の怠慢だ、はたまた③制度に問題があるなど色んな人が色んなことを言ってます。

私の考えは少し違います

①経営者のモラル


粉飾決算は会社法、金融商品取引法違反です。罰則がありますし過去の事件では経営陣が逮捕されてます。

世間を欺き、実態よりも会社の価値を大きく見せて利益を掠め取る犯罪ですから、そんな経営者のモラルに問題があるという見方です。

一理ありますね
しかし、このモラルは直接には顔も知らない投資家や株式市場の安定に対してのモラルなんですよ。

例えば、自分の会社の存続や従業員やその家族の生活と天秤にかけて投資家や株式市場の安定を重視する。そんなモラルの持ち主でなければダメということになります。

そんな人いるんでしょうか?

②監査法人の怠慢


不正や粉飾事件では監査法人の監査が十分に機能してなかったという話が出ますね。『監査法人は何をやってた?』千日もつい昨日記事にしました。

現に結果として不正や粉飾があった訳ですから監査法人が怠慢だとか無能だとか言うのは簡単です。

過去のケースでは監査法人も金融庁から業務改善命令を受けてます。早い話が役所から『マジメにやれよ』と怒られたということです。

どうやら最近は役所から指導された主に文書作成を中心とした内部手続業務に追われるようになり、『クライアントと向き合う時間がなくなった』などといった理由で監査に対するモチベーションが低下しているそうです。

むしろ彼ら、マジメ過ぎるんじゃないでしょうか?

役所の指導する文書作成を中心とした内部手続業務を頑張れば、東芝の不適切会計を未然に防げたとは到底思えません。


③監査制度の問題


そこで出てくるのが、『監査対象クライアントから報酬を受けて監査するという制度自体に問題がある』という見方です。

T社は新日本有限責任監査法人にとって6番目に監査報酬の多いクライアントだそうです。監査報酬はなんと11億円というらしいから驚きですね!

そりゃ大得意先でしょう天下のT社です。ケンカは出来ないですね。

しかし、ケンカ出来ないのは東芝も同じです。監査法人が監査報告書で『適正意見』を出さない場合の損失は遥かにクライアントの方が痛手なんですから。

『不適正意見』とは会社の決算が適正ではないという監査報告書です。通常これを目にすることはありません。なぜならこうなることが分かったら、会社が監査法人を変えるからです。

市場は特に理由がハッキリしない監査法人の交代については『決算書に絵空事を書いているヤバイ状態?』と敏感に反応します。

天下の⚪︎⚪︎と言われる大企業であるほど、簡単には監査法人の変更は出来ないものなのです。

そろそろ結論です

皆が価値を無視して数字を見ている


当たり前ですが、企業の価値は貨幣単位の数字で表現されるんです。本当に大事なのは価値なんですけど、それは目に見えないので数字を見ます。

創業者はゼロから1を創り出す稀有な人物です。価値を『観ている』からそれが出来る。
今や大企業に創業者はいません。大抵のトップは創業者のカバン持ちの、そのまたカバン持ちです。『数字を上げる』=実績という世界で特に優秀な人達なんです。

このような人達の数字に対する執着はしばしば実態としての価値よりも優先されるんです(数字が良ければ良い、価値が無くても数字を上げるノウハウ)。

それは投資家も同じ、我々も同じです

粉飾決算の本質はそのような我々のクセにあるんです。


これにそのエッセンスを込めたつもりです。実態として価値がマイナスだと分かっていながら数字にこだわるこのような人は社長でなくても我々の周りにいますよね。

そんな常識の中で鎌倉投信の新井和宏氏の投資に対するスタンスは良い意味で常識外れです。

監査法人もまた同じ


監査法人は価値通りの決算発表(ディスクロージャー)を指導する立場です。自ら価値を創造する才覚は無くても、そういう見方が出来なければなりません。


もしも分かっていながら先送りしたということであれば、怠慢というよりも職業倫理上の問題であると思います。別の見方をすると気後れしてるようにも見えます。

日本の公認会計士の歴史は浅いですが、やはり今のトップは黎明期に今の大企業の成長を後押ししてきた創始者達のカバン持ちなんです。

監査の価値よりも監査報酬という数字を優先したんじゃないでしょうか。

最後は阿佐田哲也氏の名言で締めたいと思います。ここまで読んだ方にはただの麻雀のコツではありませんよね。

麻雀を点棒のやりとりだとしか思えない人は永遠に弱者である。麻雀は運のやりとりなのだ。点棒の流通は誰にも見える。が、運の流通は見えにくい。だから多くの人が無視する。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

2016年5月13日金曜日

工事進行基準の利益の先取りと問題の先送り 監査法人はその時何を?

T社の不正を見抜けなかった監査法人

工事進行基準はリアルタイムに企業の活動の成果を決算に反映できるけど、恣意性が入りやすいので粉飾決算のリスクが高い。
例えば、見積総原価を低く見積もったら簡単に利益を先取りすることが出来る。

『会社は利益が多い方がいいから、ほっといたら皆やるでしょ。そんな会計基準はダメだな』と思いますよね。

しかし大企業は監査法人が決算を監査するという建前があります。

監査法人というのは、会計の専門家=公認会計士が作る会社です。
企業が粉飾決算をしないように、大企業の決算書(有価証券報告書といいます)を公表前に監査して監査報告書という『お墨付』を付けるんです。

例えば前の記事の例で行くと、会社が『ホントは完成まで80億くらいかかる工事なんだけど50億で出来るようにしておこう』と考えて決算書を作ったとします。

監査法人がちゃんと機能してたら、公認会計士がチェックして『ちょい待ち、そんな安くで出来ないでしょ』と突っ込んで、適正な決算を指導するんです。

だから東芝のケースでは担当した新日本有限責任監査法人の監査がちゃんと機能して無かったんじゃないか?とも言われてますね。

会社と監査法人の間でどんなやり取りがされてたんでしょうか?

考えてみました。

昨日のブログの数値例を前提にします。


  • 売上100億の工事
  • ホントの見積総原価は80億だけどワザと50億で出来ることにする
  • 今年は20億の工事原価が発生した


期末決算監査にて


経理部長『やあセンセ今年もよろしくお願いします。今年も業績はだいたい予算通りいってて順調ですワ』

担当会計士『どーもどーもソラ何より。ところで、例の原子力のインフラ工事、震災から原子力は風当たり強いでっしゃろ?』

経理部長『そうですなぁ…確かに遅れてるみたいです。工事積算部からは何も言って来ませんから見積総原価はそのままです。そういう内部統制ですからね』

担当会計士『一応担当者から話を聴いておいた方がいいですね。ちょっとセッティングして貰えますか』

経理部長『わかりました、ワタシも確認しておきたいですし』

工事担当者へのヒアリング

担当会計士『例の工事の進捗、どうでっしゃろ?見積総原価が50億で20億の原価が発生してるから40%くらい進んでる感じ?』

工事担当者『40%??何の冗談でっか?全然ですワ、やっと基礎工事にかかった所ですからええトコ10%位です』

担当会計士『そらエライこっちゃ。決算資料では100億の請負で見積総原価は50億となってるけど…』

工事担当者『今回の見積総原価はだいぶコストを絞ってますからね、今営業で請負金の増額交渉してます』

経理部長『増額交渉もするやろけど、結局原価はナンボになるんや?内部統制で見積総原価が変わる場合はすぐ経理に変更予算を出すことになってるやろ』

工事担当者『分かってますよ!私は何度も提出してます。工事の再開がいつか、追加工事を受注できるか、色んな不確定要因があるんで、部長が決裁しないんです。ウチの部長に言って下さいヨ』

担当会計士『マアマア、ともあれコレはもうちょっと社内で揉んでもらわんとあきません』

経理部長『わかりました』

監査法人の事務所で上司(業務執行社員)との会話


担当会計士『…とこんな感じだったんですけど、あれから修正予算が出て来ることも無く、今に至ってます』

業務執行社員『キミなぁ、ツメが甘いんちゃうか?監査報告書は明日やで今更どうすんねや』

担当会計士『スンマセン…』

業務執行社員『経理部長はどう言うてるんや?』

担当会計士『会社の内部統制では工事積算部から修正予算の提出がないと決算数値に出来ないと言ってます。だいたい、あんな大規模工事の原価が幾らやなんてワカリマセンと…私もわかりませんし』

業務執行社員『しかし、今の売上と利益は明らかに多過ぎるんやろ?適正とはいえへんやろ』

担当会計士『ホナ監査報告書、不適正で出しまひょか?』

業務執行社員『オマエはアホか?天下のT社やぞ、そんなこと出来るわけないやろ。今回はしゃあない


担当会計士『わかりました』


その頃の工事積算部での会話


工事担当者『部長、修正予算です。やっぱり大赤字ですワ、そもそも元の予算も原価絞り過ぎなんですよ』

工事部長『オマエはアホか?ウチは天下のT社やぞ、この工事で赤字なんぞ出す訳にいかんのや。どうにかせえ、やり直せ


そして『ふりだしに戻る』です。


まとめ


工事進行基準で見積総原価を小さく見積もることで、利益を先取りできますが、少なくとも完成する時までには本当の原価が発生します。

後になって全体の確定利益が分かって、利益を先取りしてたことが明るみになります。別の隠蔽工作をしないとバレます。

しかし、それまでの間は色んな不確定要因があるんで、上手く説明すればシロともクロとも言えないグレーな感じになるんですね。

つまり、問題を先送りし、利益の先取りを許した監査法人の監査は有効に機能していなかった。

監査を担当した新日本有限責任監査法人の責任も問われることになるでしょう。

2016年5月10日火曜日

工事進行基準不正会計と第三者委員会の調査ポイント

工事進行基準の不正リスクを解説します


何日か前からですがT社の不適切会計が大きな波紋を呼んでいます。巨額粉飾事件に発展するのでは?と言われてますね。

T社は証券取引等監視委員会に届いた内部通報で不適切会計が発覚し、2011年度から2013年度の利益の減額修正は500億円強だと発表した。加えて第三者委員会による調査を行う。その範囲は

①工事進行基準に係る会計処理
②映像事業における経費処理
③半導体事業における在庫評価
④パソコン事業における部品取引

など主力事業の大半が対象になっており、意図的な会計操作や経営陣の関与があった場合は大事件となる恐れがある。

記事を見ても『不適切会計』でやれ『第三者委員会』だの、『工事進行基準』だので結局何がどうなのか要領を得ない感じですね。

今日はこの『不適切会計』と『工事進行基準』という二つのキーワードの解説と、『第三者委員会』が調査しているポイントについて解説します。

不適切会計と粉飾決算の違い


別の表現を取ると『粉飾決算』です。実態よりも儲かってるかのような決算発表をして投資家を欺く行為です。

あえて粉飾決算と報じないで不適切会計と報じる理由は、ワザとなのか、ワザとじゃないのか明らかになってないからでしょう。

そこは第三者委員会の調査で明らかになるということです

では工事進行基準とは?

工事進行基準が不適切だったと報じてますね。工事進行基準って何でしょうか?
請負工事の収益を計上する会計基準の一つです。


工事進行基準は粉飾決算のリスクが比較的高いんです


請負工事の収益の計上基準には二つあります

  1. 工事完成基準:完成引渡し時に収益を認識する
  2. 工事進行基準:工事の進捗度に応じた収益を認識する

1の工事完成基準はシンプルです

工事が完成して引渡したタイミングで収益を計上するやり方です。

100万円の工事を80万円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。
工事中は一部前金を貰ったり、工事のために外注業者にお金を払ったりしますが、工事が完成して初めて100万円の売上と80万円の原価を計上するんです。利益は20万円ですね。

どれだけ工事が進んでても完成しないと売上になりません。確実ですけど大規模な工事で2年3年かかるような場合は会社の活動の成果が決算にリアルタイムに反映されないという弱点があります。

2の工事進行基準はリアルタイムに成果を認識します

工事の進行度合いを費用の発生額で見積もって収益を計上するやり方です。

例えば100億円の工事を80億円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。

一年目にその工事に20億円の費用がかかったとします。トータルの原価(見積総原価)が80億円ですから25%進んだと考えます。

工事が途中でも、100億円の25%の25億円の売上と20億円の原価を計上するんです。利益は5億円ですね。

この方法ならリアルタイムに会社の活動の成果を決算に反映できます。多くの大企業はこの基準で工事収益を計上して決算発表してるんです。


工事進行基準のリスク=見積総原価はあくまで『見積り』なので恣意性が介入する


さっきの例の工事の請負額100億円については相手(施主)との契約があれば、まあまあ確実です。

しかし…

見積総原価の80億円はどうか?これは企業が自分で見積るんですよね。極端な話、いくらにしても良いんです。

さっきの例で粉飾をしてみましょうか。
ホントは80億円かかるんだけど、50億で出来ることにしちゃいます。

20億の費用がかかったら、50億のうち20億ですから40%進んだことになります。

そうすると100億円の40%の40億の売上と20億の原価を計上できます。利益は20億ですね(さっきは25億の売上で5億の利益でした)。

もちろん50億では完成させられないので翌年完成の時には60億の売上に60億の原価で利益はゼロです。

見積総原価を弄ると利益を先取り出来るのが工事進行基準


T社が500億円の利益の下方修正をした背景は、このような利益の先取りがあったということを意味しているんです。

仕組みは小学校の算数レベルの話ですが、ややこしいのはその背景です。

数年に渡る大規模工事の総原価の見積りについて

  • ワザと低めに見積もったのか
  • ワザとじゃないけど結果的に足が出てしまったか

これを判断するのは、かなりややこしいでしょうね。ワザとかワザとじゃないかで罪が全然違ってきますから。

こういう背景があっての弁護士や公認会計士の第三者委員会の調査ということなんです。

2016年5月1日日曜日

O社の株主総会 勝った2世社長に忍び寄る米ファンドの影と同族会社の今後

O社の親子喧嘩は下馬評を覆して娘(現社長)が勝ちました。


経営方針を巡り創立者と現社長が対立していたO社の株主総会が本日開催され、現社長の議案が61%の賛成多数で採決されました。総会内でも父娘が鋭く対立し、株主からは『親子の対立でO社のブランドが傷ついている』、『双方が歩み寄って握手すればいいのになぜそれができないのか』など騒動に対する批判や早期収束を求める意見が相次いだとのことです。

現社長を支持したのは?


創業者が筆頭株主として約19%の議決権を有してます。加えて従業員持株会、大株主にして主要取引先の他取引先の株主が創業者を支持していたので、『創業者有利、追い込まれた現社長』という構図でした。

しかし、フタを開ければ61%の多数で現社長の勝利でした。議決権を行使した株主の割合も影響すると思いますが、注目された株主総会でしたので、普段は議決権を放棄する多くの『浮動票』が現社長に流れた結果でしょう。

浮動票以外に現社長を支持したのは、アメリカのファンド『ブランデス インベストメント パートナーズ』でした。

O社の株を主に投機目的で保有している(基本的に株価にしか興味のない)人達よって現社長が支持された

と私は見ています。

これが会社法のルールですので、そのことを問題にするつもりはありません。

多くの人は『世代交代』としていずれ創業者は退くのが筋だから、と感じるでしょう。しかし、この世代交代では創業者の築いてきた、業界での地位や影響力、従業員に対するリーダーシップを承継していないんです。

創業者の後押しの無い現社長はリーダーとして適格か?

そもそも、現社長が社長であった理由は創業者の娘だからです。おそらく、会社の内外に現社長よりも優れた経営者は居ます。

今後の展開として想定されるのは、現社長の退場です。大塚家具の株式を約10%所有していますが、創業者の19%よりも少なく支持している株主は前述の『浮動票』です。

現社長が今後『結果』を出せなかった場合、彼女を退場させるのは創業者の時よりも容易でしょう。

そうなった時に新しい経営者を連れて来るのは、アメリカのファンド『ブランデス インベストメント パートナーズ』である可能性が高いと思います。

日本の大企業には意外と一代で大きくなった同族会社があるんですが、ちょうどこれから創業者が引退の年齢になってくる会社が多いです。

本音を言いますと、会社が一定以上に大きくなって影響力を持ったら同族会社でない方が社会や従業員にとってはハッピーなんだと思います。

誰が支配していようが『社会が必要とする企業』は残ります


たとえ一族以外のものが社長になったとしても、また外国人であったとしても、O社のブランドと精神が承継されていくのであれば、それが彼ら父娘にとっての本当の勝利であろうと思います。